『紅一点論』(斎藤美奈子)

ふいー。久しぶりの日記ですわ。で、サンデル先生の本を先に読了しているわけだが、こっちの感想を書く。


著者の斎藤美奈子のことは、『妊娠小説』という評論集を書いていて、『日本文学ふいんき語り』だったか『ベストセラーゲーム化会議』だったかで参加者のゲームデザイナーの中の一人が、その本が面白いという話をしていたし(随分回りくどいな)、山形浩生が本書のことをどっかの文章にも書いてたので、名前は知っていた。プロフィールによると、元編集者みたいです。


私はちくま文庫が割と好きなので書店でもその辺の棚を眺めるんだけど、通常あんまり棚は広くないのね。売れねえから。でも、吉祥寺に最近できたジュンク堂は広いし、元々他の本屋に置いてない本を売るという方針の店なので、こういう本が割と多めに置いてある。『夜這の民俗学』とかね。


とにかく、そのジュンク堂で買ったんですね。


テーマは表紙にもある通り、「アニメ・特撮・伝記のヒロイン像」だ。『鉄腕アトム』、『ウルトラマン』から『宇宙戦艦ヤマト』、『美少女戦士セーラームーン』、『もののけ姫』、そんで伝記における『ジャンヌ・ダルク』、『ナイチンゲール』なんかの描かれ方まで日本のアニメ、特撮(と伝記)についてビシビシと興味深い指摘をしています。


本書では、子供向け特撮とアニメの世界を「アニメの国」呼んでいる。この「アニメの国」は「男の子の国」と「女の子の国」の二つの文化圏がある。前者は無論、男の子向けの番組の世界であり、後者は女の子向けの。それぞれの特徴はこんな感じである。


男の子の国
・モモタロウ文化(ヒーローが仲間と一緒に敵を倒す)である
・未来と戦争と宇宙の世界である
・戦いは異質なものを排除する戦争である
・チームは親方日の丸の軍隊である
・変身は武装である


女の子の国
・シンデレラ文化(お姫様が王子様と結婚する)である
・夢と星の愛の世界である
・戦いは世界に一つの宝物を守ることである
・チームは子どもの仲良しサークルである
・変身はファッションショーである


どっちの文化圏の話にしても具体的な番組名を思い出すと、納得するはず。男の子の国の方は、『ウルトラマン』、『マジンガーZ』、『宇宙戦艦ヤマト』、『機動戦士ガンダム』など。女の子の国の方は『魔法のプリンセス ミンキーモモ』、『魔法の天使 クリーミーマミ』、『エスパー魔美』、『美少女戦士セーラームーン』、『赤ずきんチャチャ』など。


個人的に凄く納得したのは『宇宙戦艦ヤマト』における紅一点、森雪についての分析。著者によれば、『ヤマト』のチームは「高校野球部」なんである。森雪は部のマネージャーだ。以下、長いけど引用する。


「ところで、旧日本軍的メンタリティは、いまの日本の社会に矮小化されたかたちで残っている。たとえば全国の高等学校野球部である。歴戦の勇者である年長の沖田老艦長が監督で、若い戦闘班長古代進がエースピッチャーで、航行班長の島大介がキャッチャーで、ほかにもポジションのちがうメンバーがいろいろいて、自分の職務を忠実に守る一枚岩のチーム。監督の指揮のもと、故郷の期待=地域ナショナリズムを一身にせおい、彼らは全員一丸となって、甲子園(イスカンダル)を目ざすのである。」


「彼女(森雪)の役職名は『生活班長』だが、生活班長とは体のいい下働き兼職場の花である。どうしても必要な人材ではないことは、画面を見るだに明らかだ。/彼女はふだんは、レーダーの前で通信を担当している。しかし、通信班長は相原という人が別にいる。彼女の仕事は、例によって、見たまま聞いたままを反復するだけの通信助手だ。/沖田艦長が急にぐったりしたのを見れば、レーダーの持ち場を離れて、彼女はすかさずそっちへそそくさとかけよる(そんな勝手な行動が許されるのは、そこがもともと『持ち場』でなかった証拠である)。」


どうだろう。鋭いと感じるのは私だけだろうか。ここから、『ガンダム』、『エヴァ』についても分析が更に続くが、書くと長くなるのでやめますわ。興味がある方は是非読んでみてよ。


で。私の頭に浮かんだのは、「じゃあアメリカとか外国のアニメとかそういう子ども向けっぽい番組での女性の描かれ方ってどうなってんのよ?」ということだった。


アメリカには特撮番組は、『パワーレンジャー』(日本の戦隊モノのドラマ部分を外人が差し替えたもの)以前には(私の知る限りは)ないので、漫画とアニメについて考えてみよう。


アメリカで漫画といえば圧倒的に、所謂アメコミと呼ばれるヒーローモノのジャンルを指すことが多いわけで、当然主人公は男が多い。言わずと知れたスーパーマンバットマンに、マーベルのスパイダーマン、ハルク、キャプテンアメリカ、アイアンマン…。でも、一部だけど、女の主人公もいる。私は2人だけ知っている。エレクトラワンダーウーマンというキャラがいるんだが、どれくらいの人が知っているのか分からない。しかも当の私も、この2人がどういう設定なのか知らないんだよな。いま調べてみたら、エレクトラは『デアデビル』の作中に出てくるキャラで、スピンオフで映画は作られたけど主役ではない模様。すまん。


X−メンにはストームとローグという女性キャラがいるけど、この2人は森雪のような職場の花要員では一切ないね。ストームは特殊能力が天候を自在に操るというもので、風に乗って空を飛び、雷で攻撃する。バリバリ主要キャラ。でも、この特殊能力って、何となく、気性が激しくて移り気な女性のイメージの産物という気がしなくもない。現に、これ、男がこの能力を持ってるとしたら妙な感じを持たないか?同じように天候を操る力(というか道具)を持つ『ONE PIECE』のキャラはナミという女性キャラだ。


アニメは分からんなあ。おもちゃ会社との結託がないからセグメントがはっきりしない感じ。『フリントストーンズ』とか『ジェットソンズ』とかは家族を描いたものだし、「ルーニートゥーンズ」の一連の作品には人間ほとんど出てこない。いま「カートゥーンネットワーク」でやってる番組も、女性キャラを特徴的に描いているものはないと思う。多分。ディズニー映画はどっちかといえば女の子向けだよな。『白雪姫』とか『シンデレラ』とか。ってこれは元はおとぎ話か。


スクービードゥー』には女性キャラが2人出てた。一人は眼鏡かけててて、もう一人はかわいい感じだった。『スクービードゥ』と『ヤマト』は制作された時期が近い。『スクービー』の眼鏡キャラは日本のアニメでいうところのハカセキャラだけど、人数で言えばアメリカの方が女性キャラの進出は進んでいたということが言えるのかも。


日本は言うに及ばず、アメリカを始め世界中で『セーラームーン』が流行ったのは、女の子だけがチームを組んで敵と戦うってのがエポックメイキングだったからでしょうなー。アメコミキャラが作品の壁を越えて結成した「アベンジャーズ」(東映まんがまつり的なもの)の構成員が全員女だった、というくらいの衝撃なわけだからねえ。


別に女の数が多いからどう、という話ではなく、そういう文脈で作品が語られること自体がなくなる日が早く来るべきなんじゃね?ってのが著者の斎藤美奈子さんの考えなんですけども。長くなった。最後まで読んでくれたあなた、ありがとうございます。


主観的面白さ;★★★★/5