『のはなし;イヌの巻・キジの巻』(伊集院光)

せっかく『荒野の用心棒』を観ていたのに、仕事関係のメールが入り、それの対応に追われて結局今日は観るのを諦めた。ふざけんな。タダで働くほどおりゃあ暇じゃねえんだよ。


突然だが、私はAMラジオの洗礼を受けたことがない。中高生の時に夢中になる人が多い深夜放送のラジオを、私は一度も聞いたことがなかった。いや、一度だけあった。中学の同級生が「伊集院光Oh!デカナイト」の『ベースボールクイズ』に出た時だな、あれは。まあ、とにかくも私はラジオといえば大学になるまで聞いたことなかったのだ。それもFMだしな。


更に話は飛ぶが、私はゲームをやらないにもかかわらず「週刊ファミ通」を愛読している。主にみずしな孝之福満しげゆき中川いさみの漫画を読みつつ、ちょっとコラム読みつつ、誌面をパラパラめくっている。その、ちょっと読むコラムに、伊集院光の連載があるのだ。


ここ数年連載を追いかけてて、この人の文章って面白いなって思っていた頃、本書の単行本が刊行されて、確か店頭でちょっと読んだ気がする。


時は流れてこれらが文庫化されるに至り、そして私の友人が昔からの伊集院光ファンであることもあって、我が家に文庫があやって来たわけだ。ようやく本題か。それにしても私のATOKさんは、「ファ」と入力すると候補に「ファンハウス」(B級ホラー映画)と即座に出してくれるが、そんなに「ファンハウス」なんて頻繁に使わないよ。


で、この本は、お題を読者から募集して、それについて伊集院光が書いたエッセイが編まれたもの。どれも期待通りに面白かったが、面白とは別の、こんな話にグッと来た。と、その話をする前に少し捕捉すると、伊集院光って、かつて三遊亭円楽(前の楽太郎)の弟子だったことがあるのですよ。結局落語家にはならず、お笑いの人になったのね。


それは、伊集院光のラジオのゲストに立川談志が来た時の話だ。かいつまんで言えば、落語の弟子をやっていた時に、若かりし頃の立川談志がやった、若手向けの短い話の出来に衝撃を受けて、そんで「ああ、これには太刀打ちできん」と思って落語家を辞めた、ということでした。それを聞いた談志は「うまい理屈が見つかったじゃねえか」と言ったんだと。


伊集院光は本心からそう言ったので、これをヨイショだと思われまいと「本当です!」と談志に言ったが、談志はこう返す。(以下、長いけど引用)


「本当だろうよ。本当だろうけど、本当の本当は違うね。まず最初にその時のお前さんは落語が辞めたかったんだよ。『あきちゃった』のか『自分に実力がないことに本能的にきづいちゃっ た』か、簡単な理由でね。もっといや『なんだかわからないけどただ辞めたかった』んダネ。けど人間なんてものは、今までやってきたことをただ理由なく辞めるなんざ、格好悪くて出来ないもんなんだ。そしたらそこに渡りに船で俺の噺があった。『名人談志の落語にショックを受けて』辞めるんなら、自分にも余所にも理屈が通る。ってなわけだ。本当の本当のところは『嫌ンなるのに理屈なんざねェ』わな」


驚いたことに、伊集院光はこの指摘に「図星だった」と書くのだった。自分の冠番組を持つほどの芸能人なら、肥大しきった自己が邪魔をしてムキになりそうなもんだけど、そこを認めるとは潔い。だからずーっと第一線でやれてるんだろうな。冠番組持っても長続きしない奴は掃いて捨てるほどいるもんなあ。


また話はそれるが、この「行動の原因はまず感情ありき、理由は後付け」という点は山形浩生が似たことを書いていた。あと、先日たまたま読んだ「日経ビジネスオンライン」(ああ、おれはこんなものを読んでいる;軽蔑してくれていいよ)の記事で、ちょっと昔の社会学者のパレート(経済学者でもある;パレート最適の人)も同様のことを言っていたと知った。京極夏彦も確か「殺人に動機はない」という意味のことを小説に書いていた。


となると、世の中の「ある情動、言動、行動に対する『なぜ?』」という質問は余り意味をなさなくなる。どんなに理屈をこねくり回そうが、「だってそうだから」としか片付けようのないことだから。恋愛についてなんかまさにそう。山形浩生は、


「でも実際には、ぼくたちはつい『なぜだ!』とか聞いてしまう。きいてどうする。ダメなものはダメなんだ。理由がわかったところでどうにもなるまい。カーディガンズも歌っているではないか。『Reason will not lead to solution/ I will end up lost in confusion』(理由を言われても何にもならない/あたしは混乱してうろたえるだけ)」


と言っている。ビデオ↓。Youtubeのこのビデオのページに歌詞が全て載ってるので是非見てほしい。



ってこれ、J-WAVEでかかりまくってたよなー。そんな意味の曲だったのか!やっぱり歌詞は大事だわ。


何の話だ。ええと、アレですね。今日の「理由に意味なし」は私にとってはいい話でした。今後も好きなことをやり、嫌いなことをやらないように生きることにします。小学校の作文だったらまず「もっとがんばりましょう」だな、この感想。


ファック「読書感想文」だぜー。