『冷たい熱帯魚』

行ってきたよ。


思えば、この映画の予告を見たのは去年のしたまちコメディ映画祭での『キック・アス』の上映前だった。予告の時点で何やら大変な映画のような気はしていた。でも、私の「気」は当てにならないことは私がよく知っているので、むしろその時は『ピラニア3D』の方を熱烈に観たいと思った。


1月末に本作が公開されると、R指定にもかかわらず連日満員で立ち見まで出ているというではないか。Twitterでは水道橋博士が大変に褒めていたし、こりゃあ観に行くべえってなってから3週間くらい経ってしまった。


お話は。


静岡県で熱帯魚屋を営む気の弱い男、社本(吹越満)はふとしたことから同業者の村田(でんでん)と出会う。村田は初めこそ人なつこく社本に接するが、そいつは実はとんでもない殺人鬼だと分かり、でもそいつの殺人に巻き込まれ共犯者になってしまい・・・というもの。


実際に埼玉で起きた愛犬家殺人事件が主な元ネタのようです。


R指定だけあって、セックスと死体はてんこもりのおばちゃま。おっぱいどーん!で乳首もどーん!と出てますよ。死体は画面に映るときは損壊の度合いが凄いので、ほぼ肉塊です。ゴア。それもそのはず、『東京残酷警察』なんかで有名な人が特殊効果をやってるんです。ただ、切り株描写はほとんどないです。


感想ですか。強烈だった。19:30開始の回、お客の入りは3割5分ってとこでしょうか。映画が終わりエンドロールが流れて、映画館が明るくなると、どこからともなく「はあ〜」というため息が聞こえてくる、そんな映画。その「はあ〜」は、一人一人が違う「はあ〜」だったでしょうが、そんなことが起きる映画はこと邦画ではなかなかないのでは?


邦画で「はあ〜」となっちまって記憶に残っている作品といえば、『仁義の墓場』です。渡哲也が狂った演技で怖すぎでした。あと、多岐川裕美が綺麗すぎた。


本作で狂ってるのは、でんでん(はい、こういう芸名の方なんですよ)さんの演技ですね。


冒頭、村田はいい人なんだけど嘘臭いんだよ、明らかに。うーん、嘘臭いという言葉だけでは足りてないな。最初村田は当然「いい人」を演じている(と思われる)わけだが、何というか、「俗っぽさ丸見え」って感じ。例えば『ノー・カントリー』に出てくる殺人鬼シガーは全編通してほとんど表情が変わらない。それはそれで怖いんだけど、村田の「俗っぽさ」もそーとーに怖い。乗ってる車がフェラーリだもんな。


村田は、快楽殺人犯ではなくて、ただ面倒になったら人を「透明にする」。普通、人を一人殺すってよっぽどのことじゃないとやんないでしょ?少なくともそういう風に想像するじゃない?でも、村田は金欲しさに人を騙し、ややこしくなってきたらすぐ殺しちゃう。作中で村田は50人以上殺している設定なんですが、「初めはびくびくしたりしてたけど、要は慣れだ、慣れ」みたいな意味のことを言ってる、完全にイカれた奴。


その村田に巻き込まれる社本は、一見するとまともな生活を送っている風ではある。でも、妻に先立たれてて、今の奥さんは後妻。そんで後妻と実の娘は犬猿の仲、というか感情の交流がない。更に娘は完全に親のことをなめており、食事中に本は読むはDQNなボーイフレンドから呼び出されれば食事をほったらかして外出する。


すんでのところで「家庭」の体をなしていた社本の家族は、村田と関わり合いになることでどんどん崩壊していく。これから観る人がいないとも限らないので詳しいことは控えます。


村田の犠牲にならなかったとして、社本の生活がどんなものになったかなーと思う時、存外作中に出てきたまま、ずーっと「家庭」は続くのではなかろうかと考えるのは私だけではないはず。


「あなたのおうちも、実は誰とも何も分かり合ってないのかもね」と言われているような気になる映画です。あと、ウコンの力も怖くなる映画です。


「人生ってのは痛いんだよ!」


主観的面白さ:★★★★★/5