『ステロイド合衆国』

MXテレビの「松嶋×町山未公開映画を観るTV」で放送された全39本の映画を1本525円で決済してネット経由で視聴できる、「映画祭」が開催中である。決済すると72時間は作品を何度でも視聴可能。URLは、http://www.mikoukai.net/index.html


MXが映るところに住んでいながら、ほとんどこの番組見てなかったから、気になっている映画は全部見てやろうかなと考えている。しかし、こんなことならHDDレコーダーに撮りだめしておけば良かったなあ。


今日観たのは、『ステロイド合衆国』。原題は『Bigger, Stronger, Faster』。お話は。中産階級の家に生まれた男の3人兄弟は体を鍛えまくっていた。それというのも、彼らが子どもの頃のヒーロー(ハルク・ホーガン、シュワルツネッガー、スタローンなど)は、みんなムキムキの体で「強い」男だったから。でも、そのヒーローたちは、言動とは裏腹にステロイドを打ってあの体を作っていたことが報道されてしまう。失望する兄弟。だが、打って強くなれるなら、と全員がステロイドを使うようになる。次第に次男は「これ、何かおかしくないか?」と感じ始め、ステロイドを止め、何でみんなステロイドを使うのか、答えを見つけようとする、というもの。予告↓。



アメリカ人は勝つのが大好きだ。それは、野球、アメフト、バスケットボール、ホッケーの4大スポーツ全てに引き分けが存在しないことからも読み取れる。どっちかが勝者になるまでやる。痛み分けは存在しない。負け犬を意味する「loser」という言葉は、最も酷い侮蔑の言葉の一つだ。


じゃあ、何でそんなにアメリカ人は勝つのが好きなのか、というのは私にはよく分からない。元々国を作った人が当時の社会における「under dog」、つまり負け犬だったから、負けに対する極度の嫌悪があるからかもしれない。


まあ、とにかく勝つのが好きなわけだ。今日の感想は、アレです。スポーツにおけるステロイドに関するものです。それ以外の、トレーニングマニアによる、又は医療目的によるステロイドのお話も書いちゃうと長くなっちまうので。


この映画によると、ドーピングとしてのステロイドは、既に1930年代から使われていたらしい。冷戦中、ソ連は宇宙開発でアメリカの一歩先を行きつつ、スポーツの分野では圧倒的な強さを誇っていた。ある時、ソ連のコーチがアメリカのコーチにステロイドを使用すると選手のパフォーマンスが格段に上がるということを打ち明け、アメリカはすぐにもっと効くステロイドを開発したんだと。


私はスポーツについて詳しくないのでいつ頃からステロイドの使用がドーピングとして扱われて禁止されたのかは知らないが、当時は別にいけないことではなかったわけだ。禁止もされてないうえに、打ったら速く走れて、遠くまで投げられ、重いものを持ち上げられるようになれるのならやらない方がおかしいとも言える。


で、ご存じの通り、結局今はステロイドに限らず、様々な薬物が禁止されている。赤血球を増やすための自己輸血や薬物の摂取はクロだが、高地トレーニングや低酸素カプセル内で就寝することはシロ。何で?と訊かれると答えに窮するが、「お手軽にそんなことができて、ズルっぽいから」くらいしか言えねえな。


よく耳にする「ステロイドは選手の体をボロボロにするから」というのは、まだ実証されていないようだ。ステロイドを長期的に使用した場合、どんな変化が体に起こるのかをリサーチしたものはないらしい。調べようと思ったら、既に禁止されていたから、というのが理由。ふーむ。短期的には、男性の場合は多毛症や肝機能の低下、精子の減少なんかがあるみたいだけど、これは可逆的なもので、摂取を止めれば元に戻るとのこと。


性格が異常に攻撃的になる、という副作用も報告されているが、これは「タミフル飲んだら、食卓の上で踊ってしまった」というのと同じくらいのレベルの出現率。つまり、重大な副作用ではないってことだ。勿論、タミフル飲んで飛び降りちゃった人もいるわけだが、どんな薬にも副作用はある。タミフル飲んだ人の2人に1人が飛び降りたら問題だが、有害と思われる割合でその副作用が出なければ、その薬は売るに値する。


スポーツでは近年(というかもう少し前からか?)ステロイドの摂取がダメだとされてきていて、テレビに映るロールモデルたちは、その「健康ぶり」はあくまで個人の努力の賜であると喧伝していたものの、実際はそんな奴等はほぼ全員が何らかのドーピングをしているんですな。最近だとMLBマグワイア、ソーサ、ボンズ、クレメンス、陸上のマリオン・ジョーンズ、今年のツール優勝のコンタドールがクロ。コンタドールは認めてないが、他の人は認めてる。驚くのは、カール・ルイスもかつてドーピング検査で陽性と判断されて、ソウルオリンピックの代表選考レースに出られなくなりそうだったって事実だ。あんたもやってたのか。


こうなってくると、ドーピング何でもアリにして、全ての選手が「平等に」ドーピングできる環境で競技をしたらどうだというアイデアが出てくるものだが、それもなあ。論理というか理性というかではっきりとダメな理由を述べられないが、感情的な部分ではやっぱそれはダメではないか、ズルではないか、という気がする。


作中に出てくる、「アメリカでは『正しい道』と『成功する道』は違う」、という言葉が印象的だった。勝たなきゃいけませんか。アメ公が「負けるが勝ち」を理解する日は金輪際来ないだろうなあ。


ステロイドの医学的な効用というのは明らかにあって、それは認められていて、かつ本作の中でもそれに絡めた話とかもでてくるんだけど、長くなるので今日はこれで。


主観的面白さ:★★★★/5